「本当のことが知りたい」
クローズアップ東北「本当のことが知りたい〜福島 大熊町の放射線教育〜」は福島県内の小学校での、他に例のない放射線についての授業の様子を追いかけたドキュメンタリーだ。福島第一原発がある大熊町は昨年十二月、ほとんどの地域が五年以上帰ることのできない帰還困難区域に指定された。西に約百キロ離れた会津若松市内に役場が移され、今も三千人が避難生活を送っている。市内の廃校を借りて行われる授業の中で、子どもたちが自ら放射線についてテーマ設定をして調べ、発表する様子を番組は追いかける。授業は子どもたちが原発事故を自分達のこととして捉えることが目的だと語られる。保護者の半数が原発事故の収束、廃炉作業にあたっている大熊町では、放射線が良い、悪いということを上から押し付けるだけでは済まされないからだ。
しかし「(副読本には)放射線は大丈夫だということばかり書いてあり、原発事故のことに触れなくていいのか」、「大熊町で事故が起きていて、そのことを子どもたちに考えていって欲しい」という教師たちの葛藤は見えてくるものの、その後の親子の対話に隠れて、教育現場の葛藤があまり伝わってこなかったように思う。
授業が必然的に家族を巻き込む議論に発展する様子を、番組は二つの家族を通して伝えていく。父が役場で復興計画に携わり、母が一時帰宅の付き添いで町に帰ることの多い幾橋ほまれさんと、父が単身赴任で収束作業にあたっている遠藤瞭くん(共に六年生)の家庭だ。
「将来的に出身地を隠さなければならなくってしまったら、それはすごく悲しい」というほまれさんの母の言葉は、私たちひとり一人の放射線への理解が彼らの人生を左右していることを物語っている。
一方、瞭くんの家庭では、母親が瞭くんを心配させまいと、これまで原発事故のことには触れないようにしてきたが、授業をきっかけに家族が原発事故に向き合うようになったという。その光景に、やはりそうかと感じた。震災で被害を受けた家族は、私が思っているほど震災について話さないものだということを、ここでも思ったからだ。
ほまれさんは独自の計算を進め、故郷では年間六十ミリシーベルト以上の放射線を浴びることになる事実に行き当たる。年間一ミリシーベルトの国際基準を大幅に超える値だ。「大熊町に戻って今住めるのかな?」と敢えて尋ねる母親に「住めないんじゃない」とつぶやく。ほまれさんの愕然とする様子は逆説的に、子どもたちが漠然とした事実しか知らされてこなかったことを示している。
発表を終えたほまれさんはマイクを向けられ、将来について語る。「お父さんとお母さんを見習って、故郷に帰れるように努力できる仕事につきたい。」気丈なほまれさんの、かすかにうわずった声が見えない不条理の大きさを示していた。
初出:『GALAC(ぎゃらく)』(放送批評懇談会)2013年4月号